「分断と統合のNew Story」として、モアナと伝説の海を観る
*ディズニー映画「モアナと伝説の海」について書きました。こう言う記事にはネタバレ的要素が避けられないので、先入観なしに映画を観たい方は、まず映画をご覧になってからお読みくださいね。
ただの「本当の自分を発見していく物語」だけじゃない
ディズニー大好きな娘二人と、ディズニーの最新作「モアナと伝説の海」を観てきました。 新婚旅行後、ハワイ好きになった私としては、そんな感じの映画だと思って見に行きました。観る前は、『アナと雪の女王』につづく「本当の自分を発見していく物語」 なんだろうなと思って観たのですが、そこにはチェンドリ(チェンジ・ザ・ドリーム シンポジウム)で言うところの「新しい物語」の要素がふんだんに見え隠れしているように思えたので、久しぶりにブログを更新してみることにしました。 楽園としての南の島の危機と「安全のための分断」
物語の舞台は豊かな自然に恵まれた楽園ですが、そこに暗闇の力が広がりつつあり、豊かな海から魚が消え、主食とするココナツの実は腐って食べられないようになっていき、空には黒雲が広がっていく・・・ この描写だけでもそれが現代社会の環境危機と通じる感じはプンプンします。そして、この危機が海の向こうに存在し、外洋へ出た者たちが帰らないことを見た島では、決まりとして外洋へ漕ぎ出すことを禁じます。「自分たちを脅かす外界」は恐ろしい危険なところで、そこから自分たちを切り離すことで安全を守ろうとする人々によって、図らずも世界と自分たちの分断が起こってきます。この分断は、結果的には「(海洋民族としての)自分たちの源・アイデンティティとの分断」を引き起こしていきます。
破壊の源
破壊と暗闇の起こりは、豊穣の女神から「こころ」が盗まれたことから起こります。盗んだのは半人半神の伝説的英雄マウイ。物語が進むにつれて、マウイが女神のこころを盗んだのは彼の意図ではなく人間たちの希望であったことが明らかになります。「こころ」の喪失が世界の荒廃につながっていく。これもまた現代社会に起こっていることと共通しているように思います。
マウイが体現するアナロジーとは
物語のカギを握る存在、マウイが自分のことを自慢たっぷりに披露する歌を聴いていると、オヤと思うフレーズがどんどん出てきます。「空を押し上げ、火を手に入れ、太陽をつなぎとめ昼を長くし、島を引き上げ、自然現象の全てを説明でき、風を自在に操り、蛇を殺しその魂(Guts)を埋めてそこからココナツを生やした・・・」そして同じマウイの行動がきっかけで、世界はこころを失くし闇が広がっていく。そして、そのマウイの行動を促していたものは人間たちの願望。 マウイのキャラクターに現れる類比で表現されているもの、それは「テクノロジー、科学、農耕などの文明活動」のように考えると、何となくこの映画の世界での出来事も、私たちの社会で起こっていることも説明できるように思えます。 モアナがマウイと出会った時、マウイはその力の源である「神からもらった釣り針」を喪失していたために力を発揮できません。そんなマウイが神からの力を取り戻し、「マウイをマウイたらしめているものが何であるか」に本当に気づいた時に大きな変化が起こります。そこには人間としてのマウイと神としてのマウイの統合があったのです。
破壊と豊穣の統合 世界の回復にとって絶対に必要だったこと、それは「女神テ・フィティ」がこころを取り戻すことです。このこころを返しにマウイとモアナはテ・フィティの島に行くのですが、それを邪魔しようとするのが破壊的力の象徴であるテ・カァです。最後の最後になって、モアナはテ・カァこそがこころを失った豊穣の神そのものであることに気づき、こころを返します。破壊的な力、世界に暗黒をもたらす力が、「心を失った豊穣の女神」だった。ここにはとても大きなメッセージが込められているように思います。 善と悪、破壊と豊穣を二項対立のように描くのでなく、むしろその二つが統合された時に本当に豊かな世界が出現する。このことが「モアナと伝説の海」の主題なのではないか、そしてそれは私たちが実現を望んでいる「新しい物語」の伝えることと同じように思えました。
私は何者か 「私はモトゥヌイのモアナ」これがマウイを説得し、テ・フィティの心を返しに行く旅にとって最も大切なキー・フレーズでした。ここで表現されていることとは、自分が何者であるか、そして、自分はどこと繋がっているか?ということです。地球の中の自分が属する土地と繋がっていること。それが明確になった時に、モアナは自分の使命を果たす勇気を得ます。
新しい物語 祖先たちが大切にしてきた地球とのつながりの中で、人間活動や文化、科学の力を借りて分断された世界に統合をもたらしていくことで、世界は豊かさと喜びの中に、全体性と本来性を取り戻していく・・・そんな新しい物語のテーマが、「モアナと伝説の海」に隠れているように思えます。 ご覧になった方、これからご覧になる方、どう感じられたかまた教えてくださいね。